APCR工法


廃掃法第十六条では、「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」とされています。廃棄物とは、不要になって捨てるものとされています。舗装版切断汚濁水は、業から発生する液状化した不要物として、道路側溝や下水道管渠等の水域に、みだりに投棄され続けています。

近年になり様々な環境問題が注目され、規制も厳しくなってきました。それに伴い環境は改善されつつありますが、未だに水域などの汚染が改善されていないのは、見過ごされている少量有害排水が原因であると私達は確信しています。 以前から呼びかけているアスファルト舗装道路の切断工事で発生する汚濁水の投棄について、皆様方にご理解いただき、環境保護と未来の子供達を守る為にご協力をお願い致します。

アスファルト舗装道路切断工事で発生する汚濁水投棄の現状

舗装版切断工事です。切断時に摩擦熱による刃の焼付け防止と粉塵防止の為に水を掛けながら切断をしています。発生した汚濁水は、切断作業と同時に吸引回収されますが・・・

アスファルト舗装道路切断工事で発生する汚濁水投棄の現状

殆んどは見えないように道路側溝等の水域に投棄されているのが現状のようです。

このように日々、垂れ流され続けている汚濁水には 様々な物質が含有しています。

●切断汚濁水を採取し、分析した結果と排水基準を下記【表1】にまとめました。

試 料 名

計測値

排水基準

pH(水素イオン濃度)

9.1

5.8~8.6

SS(浮遊物質量)

220000mg/l

200mg/l 以下

ノルマルヘキサン抽出物質(鉱物油)

3100mg/l

5mg/l 以下

BOD(生物的酸素要求量)

37.5mg/l

160mg/l 以下

COD(化学的酸素要求量)

799mg/l

160mg/l 以下

【表1】

分析結果から、pH ・ SS ・ 鉱物油 ・ CODが排水基準を大幅に上回っていることが明らかになっています。しかし、一箇所あたりの排水量が50m3を満たない為、規制対象外として扱われています。

●同様に汚濁水を採取し、多環芳香族炭化水素(PAH)の中でも発がん性と奇形性で有名な7種類の分析を行い【表2】にまとめました。

試 料 名

単位(ng/l )

試験方法

ベンゾ[a]ピレン

5700

ガスクロマトグラフ質量分析法

ベンゾ[a]アントラセン

2400

クリセン

9100

ベンゾ[b+j]フルオラセン

9400

ベンゾ[k]フルオラセン

2400

インデノ[1.2.3-cd]ピレン

6800

ジベンゾ[a,h]アントラセン

<1000

【表2】

分析の結果、汚濁水中には6種類のPAHが含有していました。PAHは、主に物が燃える際に発生する副産物であるため、切断汚濁水中に多量に発生した理由として、切断時の瞬間的な摩擦熱により発生したと推測されます。
PAHの中でもベンゾ[a]ピレンは、IARC(国際がん研究機関)でグループ1(人に対して発がん性が認められる)に分類されており、アスベストと同等の位置づけとなっています。また、有害大気汚染物質の優先取組み物質にリストアップされており、低濃度であっても長期的な摂取により健康影響が生ずる恐れのある物質とされています。このように有害な化学物質を含有している汚濁水を水域へ投棄する行為は、非常に悪質であり、一日も早く流出を防ぐ必要があります。

APCR工法の提案

APCR工法の提案

切断汚濁水の流出を防ぐ為には、切断工事と連動して、現場内にて吸引・回収・処理を行うことが最も望ましいと考えます。提案するAPCR工法は、バキューム吸引切断機で吸引された汚水を道路側溝等の水域に投棄せずに、適正に処理できるシステムにて現地で連続処理を行うとともに、処理水の再利用を考慮したリサイクルを推進する工法です。

処理装置の選出基準として、

1.現場に持ち込みができる簡易型装置であること。
2.切断作業と連動して連続処理が行えること。
3.各管理が行えるシステムであること。(発生量・処理量・使用水量等)
4.有害物質の飛散・流出防止対策がなされていること。
5.処理水(濾過水)が排水基準を十分に満たすこと。(基準をクリアした処理水のみ再利用が可能である為)

以上を条件として、固液分離ユニット(APCユニット)を採用しました。

固液分離ユニット(APCユニット)

吸引回収された切断汚濁水は、APCユニットで固液分離され、濾過水と固形物に分離します。
APCユニットで濾過水と固形物に固液分離された切断汚濁水

APCユニットの詳細(NPO法人再生舎 賛助会員ホームページ)

APCユニットによる固液分離処理の流れ


 路面切断時には、下記写真1のように、路面上に汚濁水が取り残されてしまいます。切断路面上の取り残し汚濁水は、乾燥して飛散することで近隣住民や環境への影響が心配されます。APCR工法では、洗浄吸引装置を使用し、今まで切断機で吸引できなかった路面上の取り残し汚濁水の殆んどを回収し、より安全な施工を目標としています。(写真2) 汚濁水を適正に回収することで、近隣住民の健康を守り、環境への負荷軽減につながると考えております。

汚濁水の吸引回収処理 

吸引回収した汚濁水はAPC(固液分離)ユニットにて処理を行い濾過水と固形物に分離します。

小規模切断工事現場には、車載型洗浄吸引ユニット等での汚濁水回収を提案しています。

車載型洗浄吸引ユニット

切断路面を洗浄し吸引した汚濁水は、タンクにて回収されます。

洗浄吸引装置の詳細(NPO法人再生舎 賛助会員ホームページ)


今回、取り上げました切断方法は水を使用しての湿式切断(バキューム切断方式)ですが、その他に水を使用しない乾式切断などがあります。乾式切断方式の場合、粉塵などが飛散し人体に吸引される可能性が高い事と、水で冷却しない高温切断となるため、ベンゾ[a]ピレン等のPAHの発生量が湿式に比べ高くなり、人体や環境への影響が懸念されます。アスファルト粉塵問題の一例として、スパイクタイヤの使用禁止は、スパイクタイヤで削り取られたアスファルトの粉塵が、大気中の二酸化窒素と紫外線により強い発ガン性物質(ニトロ化)に変化してしまうことから規制がひかれたと言われています。これらの背景から、粉塵飛散の危険性と有害物質の発生を考慮して乾式による切断方式は好ましくないと考えます。

舗装道路のアスファルト成分は、常温では流出する可能性が低く、万が一、洗浄剤や揮発性油が原因で流出した場合でも環境中への影響は低く、安全性は高いと思われます。アスファルト舗装道路は、交通傷害や環境美化への影響が多大であり、現代の車社会ではなくてはならないものです。しかしながら、取扱や処分・処理方法を誤ると大変危険な物質に変化してしまう事も事実です。アスファルト成分中に含まれるPAHは多環性が高くリスクが大きいですが、通常では飛散や流出は少なく、人為的に粉塵化させなければ環境中に影響を及ぼす危険性は極めて低い と思われます。

再生舎は、舗装版切断汚濁水の垂れ流し防止と安全な回収・適正な処理を提案しています。

舗装版切断汚濁水処理及び管理の重要性

水質汚濁防止法では、国民の責務として

「何人も、公共用水域の水質の保全を図るため、調理くず、廃食用油「等」、洗剤の使用「等」を適正に行うように心がけるとともに、国又は地方公共団体による生活排水対策の実施に協力をしなければならない」

…とされています。

また、研究の推進等では、

「国は、汚水等の処理に関する技術の研究、汚水等が人の健康又は生活環境に及ぼす影響の研究その他公共用水域及び地下水の水質の汚濁の防止に関する研究を推進し、その成果の普及に努めるものとする。」

とされています。

舗装版(アスファルト)切断汚濁水の有害性と現状

舗装版切断汚濁水の殆どは高濃度であり、流出させることで水域の環境に著しく影響を与え続けています。

 1.浮遊物質(SS)に関しては、主として水産生物の生育が問題となります。
一般には、濁度25mg/L 以下であれば、正常な生産活動が維持でき、50mg/L 以下であれば魚類の斃死の被害が防止できるとされています。排水基準では、放流元の河川水との希釈作用を考慮し 200mg/L とされていますが、舗装版切断汚濁水の濁度は、10万~45万mg/L あるため、舗装版切断汚濁水が水域に及ぼし続けている影響は計り知れない。

 2.水素イオン濃度(pH)の排水基準は、6.5~8.5とされています。
これは、水道原水として8.5を超えることで殺菌力が減少するとされており、この範囲を逸脱すると目に刺激を与えるとされています。
舗装版切断汚濁水の水素イオン濃度は9~10あり、水域に影響を与え続けています。

 3.ノルマルヘキサン抽出物質(油分等)は、石油系油分により異臭魚の発生源であり、従来からその被害防止のために水質規制がひかれてきました。また、油膜による水浴場の環境保全上の支障や水産生物に対する被害を生じる恐れも考えられました。石油系油分濃度と魚への着臭の関係については、科学技術庁の研究報告から、着臭限界は0.01~0.1mg/L とされています。排水基準では、放流元の河川水との希釈作用を考慮し鉱物油(石油系)5mg/L とされています。
 舗装版切断汚濁水中の鉱物油は、2200~3100mg/L あり、水域における環境に著しく影響を及ぼし   続けています。また、舗装版切断汚濁水中の鉱物油は、ベンゾ[a]ピレンを含む発ガン性化学物質が検出されており、人を含めた生態系に及ぼし続ける悪影響は多大なものと推測されます。この汚濁水を発生させている発注元は、各行政や大手インフラ整備企業であり、舗装版切断汚濁水は不要なものとして殆どが水域に垂れ流されています。これらの行為は意図的に行われています。発注元は、人を含めた生態系への悪影響を防ぐために、道路管理者である国や都道府県は早急に規制を定めて対応する必要があります。

※舗装版切断は研磨切断方式で、研磨された舗装版の殆どは10ミクロン以下の微細粒子となるため、吸引により肺の気泡帯に堆積し肺気腫等の人的災害を起こす危険性があります。安全性を実証されている回収方法や飛散防止対策の監督指導を行う必要があると思われます。 
   

アスファルト舗装版切断汚濁水の固液分離処理の有効性と安全性の確保

アスファルト舗装版切断汚濁水中の発ガン性化学物質を回収し、環境中への拡散を防止する為には、高性能な固液分離処理が有効な手段の一つであると考えます。切断汚濁水原水には多量の発ガン性化学物質を含有していていることが分析により明らかになった為、数ヶ月後に別の発生場所から採取した切断汚濁水の固液分離処理を行い、濾過水と固形物の化学物質の検出を行いました。分析の結果、濾過水中には発ガン性化学物質は検出されず、排水基準値以内で、固形物中には多量の発ガン性化学物質が残留している事が明らかになりました。

固液分離処理された濾過水を再生利用することは環境中には問題が生じないが、固形物の再生利用は難しく、特に残留性有機汚染物質の特性として有害性を有し、難分解性、生物濃縮(食物連鎖)し易い事で、土砂と混入した場合には人体や生態系へ著しく影響を及ぼす危険性が高いと考えられます。

有害化学物質が移行して含有している固液分離処理後の固形物は、高温乾燥改良等を行い無害化した上での再生利用が望ましいと思います。

特に理解しなければならない事は、ベンゾ[a]ピレンを含む発ガン性の高い化学物質は、国際的には基準が明記されていますが、我が国では有害大気汚染物質の優先取組物質に指定されてはいるものの、法的基準は設けられておらず、厳しい規制も無いのが現状です。

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